翻訳者の仕事には、翻訳の他にチェックの仕事もあります。
チェックの仕事では、原文と訳文を突き合わせて、タイプミス、訳抜け、誤訳などがないかどうかをチェックしていきます。
私はこのチェックの仕事が結構好きです。入力する文字の数が少なくなるので手を休めることもできますし、他の翻訳者さんの訳し方から勉強することができるからです。
5年前にIT翻訳から特許翻訳に転向した私は、最初はひたすらチェックの仕事を受けて、特許独特の言い回しや対訳をストックしていきました。実際の翻訳をするときは、そのデータをフル活用して、優れた翻訳者さんの真似をすることを心がけました。
私の訳は色々な翻訳者さんの訳し方が結集されたものと言っても良いかもしれません。特許翻訳をはじめ、技術翻訳はオリジナリティというよりも原文の意味を忠実に伝えることが求められるので、真似をすることはクオリティを上げる一番の近道と言っても言い過ぎではありません。
現在は10人ほどいる翻訳者さんの訳をチェックする機会がありますが、長いことやっていると、それぞれの翻訳者さんのクセが分かってきます。つまり、良いところとミスのしどころが掴めてきます(自分も他の人を評価できるような立場では全くありませんが 汗)。
- Aさん(バイリンガル):英語が美しく非常に読みやすいが、数字が違う、スペースが抜けるなどのケアレスミスや、タイプミスがときどきある。
- Bさん(日本語ネイティブ):ケアレスミスは非常に少ないが、英語の言い回しが自然でないことがある。
- Cさん(バイリンガル):全体的なクオリティは非常に高いが、ごくたまに肯定と否定を逆に訳してしまったり、一文をまるまる飛ばしてしまったりという重要なミスがある。
- Dさん(英語ネイティブ):訳語の選択が適切であり、原文にも忠実であるが、ときどき思い込みで日本語の解釈を誤ってしまうことがある。
このようなポイントが分かってくると、そこを重点的にチェックするようになるので、精度も速度も上がってきます。
チェックをしていると、訳し方以外にも勉強になることがあります。これについては、次回書きたいと思います。